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ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65


(Vc)ヤーノシュ・シュタルケル (P)ジェルジ・シェベック 1962年7月録音をダウンロード

  1. ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65「第1楽章」
  2. ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65「第2楽章」
  3. ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65「第3楽章」
  4. ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65「第4楽章」

忘れてしまうには惜しいピアニスト~シェベック



ここで今さらシュタルケルのことを云々するのは時間の無駄、ページの無駄でしょう。彼の凄さについては書きつくされ、語られつくされています。
ですから、ここではピアノをつとめている「Gyorgy Sebok」について少しふれておきます。

「Gyorgy Sebok」は日本では「ジェルジ・シェベック」と発音されているようですが、ピアニストとしてはほとんど無名に近い存在ではないでしょうか?
ただ、シュタルケルがマーキュリーレーベルで行った一連の録音でパートナーを務めたということで、微かに記憶に残っているという存在です。

ところが、この残された録音を聞いてみると、驚くほど素晴らしいのです。率直にって、チェロが主でそれにつきあわさせてもらっています・・・みたいな雰囲気は微塵もありません。シュタルケルのチェロを向こうに回して、ガンガンと前に出てきます。
確かに、ショパンのこのチェロソナタは、基本的には「チェロ・オブリガートつきのピアノソナタ」です。ある人に言わせれば「ピアノソナタ第4番」だそうです。

ですから、ピアニストがヘボでは話にならないのは当然ですし、これくらい前に出てきてくれないとこの作品の魅力は消し飛んでしまいます。

ところが、意外と、そのあたりの兼ね合いが難しいという話を聞いたことがあります。
この作品はピアニストに対して伴奏者としての技量ではなくソリストとしての技量を求めます。しかし、ソリストとしての技量を持つピアニストであれば、何もこのような作品でチェリストとつきあわなくても他で自分をアピールできる作品はいくらでもあります。おまけに、室内楽作品では自宅で一人で練習というわけには行きません。時間と場所を押さえて「合わせる」事が必要になってきます。
つまりは、ソリストとしてやっていけるだけの技量を持つピアニストであれば、面倒くさい作品なのです。

ネット情報によると、二人結びつきは、ハンガリー動乱でパリに亡命をしていたシェベックをシュタルケルが援助したことから始まるそうです。そして、この二人の結びつきはマーキュリーの録音だけでなくコンサートでもコンビを組み世界中を回ったようです。
シュタルケルの初来日の時も美人の奥さんとシェベックの3人組でやってきたそうです。

ただ、不思議なのは、これだけの技量を持ったピアニストがどうしてソリストとして大成しなかった(もしくは、それをメインに活動しなかった)のかと言うことです。
70年代にはグリュミュオーの伴奏者を務めてブラームスのヴァイオリンソナタを録音したり、ボザール・トリオに紛れ込んでブラームスの三重奏曲全集を録音したりしていますが、ソリストとしての仕事は非常に少ないようです。かろうじて、エラートレーベルでバルトークやショパン、リストなどを録音しているようですが、それも廃盤となって久しいようです。

晩年は、桐朋大学でピアノのマスターコースも担当して日本との関係も深かっただけに、忘れ去られてしまうのは少しばかり勿体ない存在です。

マーキュリーレーベルでの録音




  1. J.S.バッハ:チェロ・ソナタ 第3番 ト短調 BWV1029 1963年4月録音

  2. ショパン: 序奏と華麗なポロネーズop.3 8.46 1963年10月録音

  3. ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65 1962年7月録音

  4. ブラームス:チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 作品38 1964年6月録音

  5. ブラームス:チェロ・ソナタ 第2番 へ長調 作品99 1964年6月録音

  6. メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ 第2番 ニ長調 作品58 1962年7月録音

  7. メンデルスゾーン:協奏的変奏曲 Op. 17 1963年10月録音

  8. マルティヌー:ロッシーニの主題による変奏曲 1963年10月録音

  9. ドビュッシー:チェロ・ソナタ第1番ニ短調 1963年10月録音

  10. バルトーク:ラプソディ第1番 10.22 1963年10月録音

  11. ヴェイネル:ハンガリーのウェディング・ダンス 1963年10月録音



「鬼子」のような作品

ショパンのチェロソナタというのはなんだかミスマッチな気がします。
確かに、彼がピアノ以外の楽器を使った室内楽の作品は4つしかないのですから、とにかくピアノ以外の楽器を使って作品を書いていること自体が奇異に感じがしてしまうのです。しかし、その例外的な4つの作品を眺めていると、その大部分にチェロが使われていることに気づきます。

  1. チェロ・ソナタ ト短調op.65

  2. 序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調op.3

  3. マイヤベーアのオペラ「悪魔のロベール」の主題による協奏的大二重奏曲ホ長調~チェロとピアノのための

  4. ロッシーニのオペラ「シンデレラ」の主題による変奏曲ホ長調(遺作)~フルートとピアノのための


「序奏と華麗なるポロネーズ」もピアノとチェロのデュオですから確率は4分の3です。

この背景には、ショパン自身がチェロの響きを好んだと言うこともあるのですが、オーギュスト・フランショムというチェリストの親友がいたことも大きな要因となってるようです。
特に、恋人であったサンドと分かれてパリに舞い戻ってきたショパンを物心両面で支えたのがオーギュスト・フランショムでした。そんなフラショムの友情に応えるために、最後の力を振り絞って書いたのがこのチェロソナタでした。

体力も衰え、ほとんど小品しか残さなかった晩年のショパンにとっては例外とも言えるほどの大作です。そして、その「例外」性に、フラショムへの深い感謝の気持ちを読み取ることが出来ます。

ショパンの音楽は基本的には伴奏+歌というホモフォニックな形が基本でした。そして、チェロソナタという形式であれば、当然の事ながらピアノは伴奏に徹してチェロが朗々と旋律を歌うという形式が想像されます。
しかし、ショパンはこのソナタではそう言う安易な形はとらず、チェロとピアノを対等に扱い、対位法的に処理をしています。
例えば、第3楽章のいかにもショパンらしい美しいノクターンでも、ピアノとチェロが交替しながら3声の音楽を歌い上げていきます。決してピアノ伴奏の上をチェロが歌うという単純な形にはなっていません。
雰囲気としては、ピアノの詩人ショパンにとっては「鬼子」のような作品になっているのですが、もう少し評価されてもいいのではないかと思われます。

また、これをショパン最晩年の作品と見るのは後の世代の目です。
当の本人はこれが最後の作品になるなどとは思っていなかったことは明らかであり、残されたスケッチなどからはヴァイオリンソナタなども構想されていたことが知られています。もしかしたら、彼はサロンでのピアニストというポジションから、より本格的な作曲家へと羽ばたこうとしていたのかもしれません。