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ベートーベン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109


(P)リヒター=ハーザー 1959年6月10~12日録音をダウンロード


ベートーベン最後の輝き



中期の絶頂期にあとにベートーベンを深刻なスランプが襲ったことは有名な事実です。そのベートーベンが長い雌伏のあとに後期の絶頂期を迎えるのが、この最後の3つのソナタを作曲した時期でした。

この時期にベートーベンは、ピアノ曲ではディアベリ変奏曲、交響曲の分野では第9を、そして声楽を含む巨大な作品である「ミサ・ソレムニス」などを生み出しています。

どの作品も今までの作品群とは一線を画するような正確を持っていますが、それはピアノソナタの分野でも同様です。
後期三大ソナタと言われる「作品109〜111」のソナタはいずれも幻想的な雰囲気を持ち、とりわけ変奏曲形式が重要な位置を占めていることが特徴です。

この作品109のソナタでも、作品全体を受けとめるような重みのある変奏曲を第3楽章に持ってきています。ソナタに変奏曲形式を盛り込んだことは今までも何度かありましたが、これほどまでの重みを与えたのはこれが初めてです。
ベートーベン自身が「歌うように、心の底からの感動を持って」と記しているように、実に感動的な音楽となっています。

第1楽章
 ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ ホ長調 4分の2拍子 ソナタ形式
第2楽章
 プレスティッシモ ホ短調 8分の6拍子 ソナタ形式
第3楽章
 アンダンテ・モルト・カンタービレ・エド・エスプレッシーヴォ ホ長調 4分の3拍子 変奏曲形式

腕のいい煉瓦職人

少し前になりますが、「恥ずかしながら、『Hans Richter-Haaser』というピアニストのクレジットを見ても「ハンス・リヒター=ハーザー」とは読めなかった。(´`)>」などと書いていましたね。まあ、それくらい私の視野に入っていなかったピアニストだと言うことです。
ただし、ファースト・コンタクトだったブラームスのコンチェルトの印象は悪くなくて「録音の良さも貢献しているのでしょうが、一つ一つの粒立ちが良くて実に冴え冴えとした響きはなかなかに魅力的です。そして、いわゆるドイツ系のピアニストのようにゴツゴツした感じが全くなくて、それとは反対の優雅な雰囲気が全体を支配しています。」と書いています。
しかしながら、ピアニストの本質はベートーベンのピアノソナタを聴かなければ分からないという「古い人間」なので、いささか意地悪な興味も伴ってこれら最晩年のソナタを聴いてみました。

結論から言えば、極めてファンタスティックな演奏だと言わざるを得ません。
ネット上の評価を散見しますと、「重厚、立派な骨格で作品を再現」とか「がっしりと堅固に構築されたドイツ風なスタイルを基調としたもの」などと書かれていますが、この録音を聞く限りは同意しかねます。おそらくは、年を経るに従って演奏スタイルが変わってい言ったのかもしれませんが、50年代の録音を聞く限りでは、そしてベートーベンの演奏においても、ゴツゴツした感じよりはそれとは反対の優雅な雰囲気が全体を支配しています。
ただし、雰囲気だけの流線型の演奏とはこれまた全く異なります。
果たして、こういう喩えが相応しいのかどうかは自信はありませんが、腕のいい煉瓦職人のような感じです。つまり、一つ一つの細部は極めて繊細にして精緻に仕上げられています。そして、そう言う一つずつの細部をこれまた実に丁寧に積み上げて、結果として実に立派な建造物を作り上げているように聞こえるのです。
ですから、まずはその「一つずつの煉瓦の仕上げの良さ」に感心させられます。その手触りの良さ見栄えの良さには録音のクオリティの高さも貢献して、実に惚れ惚れとさせられます。しかし、リヒター=ハーザーの素晴らしさは、そう言う細部の素晴らしさに感心させられながら、最後に気がつくと実に立派な建築物に仕上がっているという事です。

ただ、惜しむらくは、録音ではこれほどまでに「いい仕事」をしているのに、実演になると結構荒っぽかったらしいのです。そのあたりが、常に高いレベルの演奏を維持していたバックハウスなどとの違いだったのかもしれません。